六鹿宿

介護保険発足直後から介護の世界で働いている僕が見たり聞いたり感じたことを綴っています。

創造の介護

介護の仕事の魅力。
それは何かについて深く考えてみると、一つの答えに行きあたる。


それは「創造」すること。


例えば、あるお年寄りが改善すべき生活上の課題を抱えておられる。
その課題について「どうすれば解決するのか?」「どうすれば障害を乗り越えて、生活を豊かに出来るのか?」「どうすれば喜んでもらえるのか?」を創造していく。


喜んでもらうために考え、作戦を練り、仲間と共にその作戦を実行に移す。そうして創造した介護が、ドンピシャにハマり、お年寄りやそのご家族に喜んで頂ける。
それが、成功体験となり介護職を成長させ、仕事を感動へと変化させる。


この感動を体験すると誰もが「介護」に間違いなく、はまる。


例えば、僕の新人時代の実例。
あるお婆さん、まだ80歳前で若い方だったが強度の認知症を患っておられコミュニケーションのほとんど取れない方だった。足腰はまずまず達者でお昼間は、とにかく歩き回り、止まることが出来ない。
手づかみで食事し、排泄等の介助に関しては理解は難しいながら激しい拒否などは無かった。
夜が問題だった。
ご自宅では、夜中も歩き続けて止まれないことがあったため眠前に強めの睡眠薬を飲まれており施設でも同様の対応を続けていた。それによって眠ることは出来るが、起きだすとフラフラで歩くと2,3歩で転倒する状態。できるだけ起こしたくは無いが、夜中、特に明け方に便意を催して起きだされることが多かった。歩くことがままならない為に、ベッドの横にポータブルトイレを置いて、タイミングを計りながらそこに座って頂く。しかし。誘導しても誘導しても排泄は無く、少し職員が離れた間に便失禁で其処らじゅうが汚染したり、ベッドサイドで転倒したりが続いた。
一番悪いパターンでは、転倒した上に床全体が便まみれになり、えげつない状況に…。


う~ん。前もってタイミングを計って誘導しているのに…どうして、うまく排泄が出来ないんだろう?
昼間は、そんなに問題なく排泄できているのに…
睡眠薬が効いてるせいかなぁ?もう少し弱い薬に代えてもらってはどうだろう?
下剤飲むタイミング、変えてみたらどうかなぁ?…遅らせてみたけど…やっぱり明け方に出るな…
オムツの変更は? いやぁ…触ってゴソゴソしはるし…変えても意味ないか…


そうだ!もしかして。ポータブルトイレが認識できないんじゃない?トイレって分からなきゃ、気持ちよく出せないよね。どうかな?ちょっと遠くなるけど…昼間に使うトイレまでお連れしたら…


と言う訳で、さっそく車いすを用意して明け方のトイレへと誘導。


すると、どうだ…何度誘導しても排泄の無かったポータブルと違って、トイレでは座った途端にブリンとストンと綺麗なお通じが出るじゃないの!!
お婆さんも、いつもの眉間に皺の寄った表情じゃぁ無くて、「あ~。助かった~」って顔してるよ!


そう、なんてことの無い話だが、これこそが「創造」であり、お婆さんの「助かった~」って顔を見て、心の底から叫びたくなるくらいに介護職は感動するわけだ。


「創造の介護」による感動体験は、僕の中に沢山蓄積されている。


介護職は魅力のある仕事です。そう世間に対して、僕は声を大にして言いたい。


身の丈にあった、介護する側もされる側も無理をしない「適当介護」
それにお年寄りの生きた歴史の物語に焦点を当てる「ナラティブケア」が合わさった所に
「創造の介護」が存在する。


長らく解を得なかった僕の中の図式。
「適当介護」×「ナラティブケア」=「創造の介護」


うん。できた。実践と発信を続けよう。

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