片腕
片腕をもがれる。
そう言っても過言では無い。
居なくなれば、僕の片腕が、もがれるにも等しい。
悲しいとか、苦しいとか、そういう表現では表しきれない虚無感がそこには待っていて。
文字通り、片腕にも等しい、そういう存在が。
いや、分からない。もしかすると、片腕どころか心臓のような存在が。
「職場を去る」と言う。
この職場に絶望して、そう言う。
あんなに、熱い心を持っているのに。
その心で語り合って、僕を支えていてくれていたのに。
もう疲れた…そう言うんだ。
そうして、僕の目の前に、まるで底なしの沼の様な虚無が広がる。
これからの日本の超高齢社会を暗示するように、深くて冷たい、底の見えない沼が。
そうなんだ。誰も、この仕事をしたいと思わないし、続けたいとも思わない。
希望の無い、切ない、実りの無い、そういう仕事。
本当はそうじゃ無いはずなのに。
ねぇ…目をつぶってしまうのかい?
日本人の4人に1人が75歳以上なんだよ。あと10年もしない内に。
そこを支える若い介護職の枯渇に目をつむって、本気で大丈夫だと思っているのか?
生産性の無い者、お年寄りへは引導を渡せば良いの?放っておくの?
でもね、はっきりと言いますが。
誰もが年をとり。
あなたの、父や母も年をとり。
あなただって、いずれ、おじいさんやおばあさんになる。
その時、いま僕が感じているのと同じ虚無感を、等しく誰もが絶望的に感じてしまう。
そういう国で良いのか?この国は。
どうすれば、若い人たちが、笑顔でこの仕事を続けて行けるのだろう。
そう言うことを、真剣に考えなければ…。
この国は…。