六鹿宿

介護保険発足直後から介護の世界で働いている僕が見たり聞いたり感じたことを綴っています。

古き良き措置の時代。

うちの法人は誕生から約30年が経過している。
昔から働く先輩職員に話を聞くと「やっぱり2000年以前、介護保険の始まる前まではのんびりしてて良かったなぁ~」と語られることがある。
実際に僕は2000年以前のいわゆる「措置の時代」については知らない。
介護保険以前は、特養に入所するお年寄りは行政が決めており、お年寄りに選択の自由は無かった。
つまり、社会的に行き場の無いお年寄りに行政が救いの手を差し伸べ、入所先をあてがう「措置」という形態が一般的だった。


ケアマネも存在しないし、営利企業の参入も無かった。ただ弱者を守ることのみを念頭に、ケアを提供していれば良かった。事務仕事が大幅に少ない分、お年寄りの隣に寄り添える時間も長かった。


もちろん当時、暗黒の時代の側面があったことも事実で、社会的入院の名のもとに行き場のないお年寄りの受け皿として老人病院というものが存在した。
そこには寝かせたきりで、床ずれだらけ、風呂もろくに入れないし、転ばないように、点滴を抜かないようにと腕や体を縛られて過ごすお年寄りが普通に存在していた。


その頃に比べると今は福祉に対する世間の目も、事業者の思考法も大きく改善したと言える。
以前の老人病院のような対応では、誰も納得しない時代が今日だ。


しかしそれでも、真面目にケアに取り組んできた法人からすると介護保険以降は忙しすぎるし、お年寄りの側でゆっくり出来る時間が少なすぎる。
それに、最近ニュースで話題にもなったように虐待も無くならないし、サービス付き高齢者住宅での劣悪なケア提供の実態(職員が少なすぎて対応できず、鍵をかけてお年寄りを閉じ込めるなどの事実がある。)など、暗黒の時代と然程変わらない現実も未だにあるらしい。


今も昔も結局は「福祉は人」ということなのだろう。


介護保険の煩雑さをどうにかする必要もあるし、善意を持って福祉と向き合える人材が育ち、辞めて行くことの無いような職場環境を構築していく必要もある。


古き良き措置の時代。その時代を知る職員さんが、ぼちぼちとリタイアしていく時期に差し掛かる。
彼等の教えを吸収し、彼らの守ってきたものを今度は僕らが守り、継がなけらばならない。

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