六鹿宿

介護保険発足直後から介護の世界で働いている僕が見たり聞いたり感じたことを綴っています。

ターミナルケアへの思い。

先月末に多量の嘔吐、その後の血圧の上昇と発熱。また、体中が黄色く染まる症状が現れる。
そして今月、深夜に再嘔吐。精査はしていないが胆管炎の疑い。
現在は意識も朦朧としておられ、いつ何があってもおかしくは無い状態のお年寄りがおられる。


普通であれば、入院して積極的な治療をするという選択をするべきだが、90歳を超えた方にそこまでの治療が必要なのかどうか、しんどい思いを長引かせるくらいなら、このまま施設で看取ることを選択するのも本人にとっては良いことなのかも知れない。
主治医の話を聞き、ご家族は迷われながらも、そう決断された。


ここ10年ほどで、そういう選択をするご家族は増えたように思う。
病院で死亡する人が8割方であった時代は終わったのかも知れない。
超高齢社会は即ち多死社会の到来を意味するものであり、病院にはその「多死」を受け入れるだけのキャパシティーが無いのも事実。
自然、施設や在宅での看取りが大幅に増えて行くという訳だ。


しかし助かる見込みがあるのならば入院と言う選択をするのも、悪くはないと思う。
今回のターミナルはそう意味でも微妙なところで、思いは複雑になる。


だが家族の決断がある以上、全力でターミナルケアに取り組むことが僕らの使命だ。
ターミナルだからと言って、特別なことはしない。けれど日々のケアを丁寧に丁寧に。そして少しでも安楽に生活をして頂けるように見守り、向かい合うことが僕らにできることの全てだ。
そして、ご家族とも話し合う機会を持ちながら最期に向けて、ケアをさせて頂いている。


昨日も意識がもうろうとされている状態ではあるが、お風呂にしばらく入ってもらえていなかった為に、せめて汗を流して体を綺麗にしてあげたいという思いから医務室と交渉しシャワー浴を行った。
その間に急変が起こり得ることも十分に考えられた為に、ご家族にも電話で連絡。
「状態は変わりなく意識が朦朧とされています。何があっても不思議では無いですが、体を綺麗にして差し上げたいのです。シャワーだけでも浴びて頂いて宜しいですか?」
正直、そんな電話をされても困ると思うのだが…。
「よろしくお願いします。全て、そちらにお任せしたいと思います。」という返答を頂いた。


長時間の座位は負担となる為に、とにかく手際よくシャワー浴を行う。特浴という寝たまま入浴できる機械も施設にはあるが、僕はあれは「天ぷら揚げ機」みたいで好きになれないので、極力ギリギリの最後まで使用しないことにしている。
身体を寄せ抱きしめるようにして頭や体を洗う。僕の持てる介護技術の全てを、このシャワー浴に投入しサッパリとしていただいた。


お部屋に戻って、横になって頂き、髪を乾かして爪を切る。
意識は相変わらず朦朧とされているが、やはりサッパリと穏やかな表情はされている。綺麗なパジャマに着替えたばかりのお姿は、本当に美しかった。


ターミナルケアは明日からも続いていく。最期のその時まで、とにかく丁寧に丁寧にケアを続けていきたい。

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